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東京高等裁判所 昭和59年(行コ)54号 判決 1985年12月26日

控訴人 佐多正規

被控訴人 王子労働基準監督署長

代理人 高須要子 堀千紘 岩井明広 ほか二名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴人の当審における中間確認請求を棄却する。

当審における訴訟費用は全部控訴人の負担とする。

事実

一  申立

(控訴人)

1  控訴の趣旨

(一) 原判決を取り消す。

(二) 被控訴人が控訴人に対し昭和五六年七月二四日付でした休業、障害補償給付不支給決定処分(以下「本件処分」という。)を取り消す。

2  中間確認の訴えの請求の趣旨(右訴えは当審で新たに提起されたものである。)

「労働者災害補償保険法上の受給権の客観的範囲を限定している給付基礎日額は、複数の事業主から賃金を得ていれば、その合算額によつて計算されることを確認する。」

(被控訴人)

1  控訴の趣旨に対する答弁

(一) 本件控訴を棄却する。

(二) 控訴費用は控訴人の負担とする。

2  中間確認の訴えの請求の趣旨に対する答弁

(一) 本案前の申立

(1) 控訴人の中間確認の訴えを却下する。

(2) 訴訟費用は控訴人の負担とする。

(二) 本案の答弁

(1) 控訴人の中間確認請求を棄却する。

(2) 訴訟費用は控訴人の負担とする。

二  主張

次に付加するほか、原判決事実摘示(但し、専ら原審相被告労働保険審査会に対する請求に関する部分を除く。)と同一であるから、これを引用する。

(控訴人)

1  本件処分の取消請求について

(一) 労働者災害補償保険法(以下「労災法」という。)に基づく労働者災害補償保険制度(以下「労災保険制度」という。)は、労働基準法(以下「労基法」という。)による災害補償制度から直接派生したものではないこと、労災法は、昭和四八年法律第八五号による改正等により労基法に基づく災害補償を上回つた補償を定めて労働者の保護を図つているものであること、また、労働者災害補償保険事業に要する費用については、事業主の負担する保険料は国税並みに強制的に徴収されることとなつているとともに、国もその一部を負担するものとされていること、更には労災法二五条二項は通勤災害により療養給付を受ける労働者からも負担金を徴収することとしていること、以上のような趣旨、事情からすると、労災法ないし労災保険制度は労基法に基づく事業主の個人責任を保険するだけのものではないというべきである。

(二) 労基法三八条の「事業場を異にする場合」とは事業主を異にする場合をも含み、二以上の事業主に使用されその通算労働時間が八時間を超える場合、法定時間外に使用した事業主は同法三七条に基づき割増賃金を支払わなければならない、と解されており、二重雇用関係にある者の割増賃金については二つの事業場における労働時間を通算して考えるべきこととされている。平均賃金についてもこれと同様の立場に立つて考えられるべきである。

(三) 業務災害の場合における給付に関する条約(以下「ILO第一二一号条約」という。)二〇条一項は、業務災害による定期金給付算定の基準を当該労働者の得るすべての賃金にかからしめており、熟練労働者についての一九条一項も同様である。そして、右条約は我が国においても昭和五〇年六月七日から効力を生じているのであるから、それ以降は、これに牴触する国内法は無効であり、また、国内法について同条約の定めに反する解釈をすることも許されない。

(四) したがつて、控訴人に対する本件休業補償給付及び障害補償給付の額は、凸版城北印刷株式会社だけでなく近代製本株式会社から支払われた賃金をも含めた賃金総額を基礎とした平均賃金(給付基礎日額)によつて算出されるべきであり、かかる算定方法によれば、控訴人の本件業務上負傷による労災法に基づく休業補償給付及び障害補償給付にはなお一部未払分があることになるから、その支払を求めた本件給付請求に対して不支給と決定した本件処分は違法であり、取り消されなければならない。

2  中間確認請求について

(一) 複数の事業主から賃金を得ている場合、労災法上の受給権の客観的範囲を限定する給付基礎日額は、右賃金の合算額によつて算定されると解釈すべきことは、本件処分の取消請求において主張したとおりであり、本訴請求の先決的関係にあるところ、被控訴人はこれと異なる解釈に立つて争つている。

(二) よつて、控訴人は、中間確認の訴えとして、前記請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。

(被控訴人)

1  本件処分の取消請求について

(一) 労災法は、使用者の無過失責任に基づく損失填補を目的とする労基法上の災害補償の内容の完全な履行を確保するため労基法と同時に制定・施行されたもので、同法による保険給付は、労基法の災害補償と同質であり、使用者の無過失責任に基づく損失を填補することにその本質がある。労災法は、今日に至るまで三十数回にわたつて改正され、そのうちには控訴人主張の昭和四八年法律第八五号による通勤災害保護制度の創設や国庫補助の導入等もあり、また、スライド年金化等によつて被災労働者に対する生活保障機能を強めてはいるが、現行制度下における労災保険事業に要する費用全体に対する国庫補助の割合は、昭和五〇年度ないし五七年度においても〇・一五パーセントないし〇・二六パーセントにすぎず、他はすべて使用者が負担している状況にあるのであつて、いまだ前記本質に変わりはなく、労災保険は個別使用者責任を財政的に担保する制度というべきである。

そして、昭和四八年法律第八五号による改正前の労災法(以下「旧労災法」という。)一二条の二第一項は、「給付基礎日額は、労働基準法第一二条の平均賃金に相当する額とする。」と定めているところ、労基法上右の平均賃金は、解雇予告手当、休業手当、年次有給休暇の賃金、災害補償、減給の制限等の算定基準であり、右手当等を支給する者は、支給すべき事由の発生した事業場の使用者のみであることはいうまでもないから、右の平均賃金は、当該使用者がその労働者に対して支払つた賃金を基準として計算されるべきことになる。また、労災保険事業の費用に充てるため政府が徴収する保険料に関する事項を定める労働保険の保険料の徴収等に関する法律は、各使用者がその使用する労働者に支払う賃金と災害率に応じて保険料を負担することを定めている。

以上によれば、同時期に複数の雇用関係にある労働者が業務上災害を被つた場合、災害発生に関係した使用者が被災労働者に対して支払つた賃金の総額を基礎として給付基礎日額を算定し、これに基づいて支給額を決定すれば足りるというべきであり、本件処分は適法である。

(二) ILO第一二一号条約は、業務災害による永久的な、所定の程度を超える所得能力の一部喪失又はこれに相当する身体機能の喪失を業務災害給付の適用対象とし、保護対象者に対しては定期金による現金給付が行われることとしているところ、右定期金の算定方法を定める同条約一九条一項(なお、右の算定方法については、同条と二〇条に規定が置かれているが、いずれの制度を採るかは加盟国の選択にまかされており、我が国は一九条の算定方法を選択しているものである。)は、「この条の規定の適用を受ける定期金については、……受給者又は受給者の扶養者の従前の賃金の額と標準受給者と同一の家族的責任を有する保護対象者に支給される家族手当の額との合計額に付表IIの百分率を乗じて得た額に少なくとも達するようにする。」と規定し、同条二項は、右規定における給付計算の基礎となる「従前の賃金」について、「従前の賃金は、所定の規則によつて計算する。」と規定している。そして、同条約において「所定の」とは、「国内の法令により又はこれに基づいて定められていることをいう。」(一条(b))から、結局、給付計算の基礎となる従前の賃金の確定は国内法に委ねられていることになるところ、我が国の労災法は、業務災害に関する保険給付について、前記のとおり、災害発生に関係した使用者が被災労働者に対して支払つた賃金の総額を基礎として給付基礎日額を算定し、これに基づいて支給額を決定すれば足りると定めているのであるから、ILO第一二一号条約に関する控訴人の主張は失当である。

2  中間確認請求について

(一) 本件前の申立の理由

中間確認の訴えは、係属中の訴訟の訴訟物の判断に対して先決関係にある法律関係の存否についての確認を求める訴えであるところ、控訴人主張のように給付基礎日額(平額賃金)を合算額によつて算定すべきか否かということは、単なる解釈問題にすぎず、何ら既判力をもつて確定すべき法律関係ではないから、中間確認の訴えの対象となるべき先決の法律関係ということはできず、控訴人の本件中間確認の訴えは不適法である。

(二) 本案について

被控訴人が控訴人の主張を争つていることは認めるが、その余は争う。

三  証拠<略>

理由

一  請求原因1ないし4の事実は当事者間に争いがない。

二  本件処分の取消請求について

1  控訴人は、本件業務上負傷による労災法に基づく休業補償給付及び障害補償給付については、近代製本株式会社から支払われた賃金をも合算して平均賃金を算定し、これを給付基礎日額として各給付額を決めるべきであり、右各給付には一部未支給分が存することになるから、これを理由とする本件給付請求に対して不支給と決定した本件処分は違法であると主張する。そこで、まずこの点について判断する。

(一)  <証拠略>によれば、控訴人について本件業務上負傷による労災法上の休業補償給付及び障害補償給付を支給すべき事由が生じたのは、昭和四八年法律第八五号による改正後の労災法の施行前であるから、控訴人に対する右各給付については旧労災法が適用されることになる(もつとも、以下に述べる給付基礎日額に関しては、旧労災法と現行労災法とで基本的内容に変わりはなく、以下の判断は現行労災法についても妥当するものであるから、特に必要がある場合のほかは、叙述上旧労災法と現行労災法とを区別せず、両者を指称する趣旨で単に「労災法」という。)ところ、旧労災法は、業務災害に関する保険給付のうち、休業補償給付及び障害補償給付の支給額について「給付基礎日額」をその算定基礎とし(一四条一項、一五条)、「給付基礎日額は、労働基準法第一二条の平均賃金に相当する額とする。」(一二条の二第一項)と定めている(なお、一二条の二第二項は、「労働基準法第一二条の平均賃金に相当する額を給付基礎日額とすることが著しく不適当であるときは、前項の規定にかかわらず、労働省令で定めるところによつて政府が算定する額を給付基礎日額とする。」と定めているが、本件におけるように労働者が同時期に複数の雇用関係にある場合の給付基礎日額の計算については、右第二項に基づく例外的計算方法は労働省令に定められていないので、本件では右第一項を問題とすれば足りることになる。)。

(二)  そこで、労基法一二条の「平均賃金」について考えるに、同条一項は、「この法律で平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生した日以前三箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいう。」と規定しているところ、労基法は、右の「平均賃金」を、労働者を解雇する場合の予告に代わる手当(二〇条)、使用者の責に帰すべき休業の場合に支払われる休業手当(二六条)、年次有給休暇の日について支払われる賃金(三九条四項)、労働者が業務上負傷しもしくは疾病にかかり、又は死亡した場合の災害補償(七六条ないし八二条)、減給の制裁の制限額(九一条)等を算定するための共通の基準としているのであり、このような点に鑑みると、前記の「支払われた賃金の総額」とは、右各支給事由等の発生した事業場の使用者からその労働者に支払われた賃金の総額をいうものであり、労基法一二条の「平均賃金」はこのような賃金に基づいて算定されるべきものと解される。これを労災法上の休業補償給付及び障害補償給付についていえば、その算定基礎となる給付基礎日額(平均賃金)は、右各給付の支給事由の発生した事業場の使用者から被災労働者に支払われた賃金に基づいて算定されるべきことになる。

(三)  しかるところ、控訴人は、労災法ないし労災保険制度は事業主の個人責任を保険するだけのものではないとして、労災法による休業補償給付及び障害補償給付の支給額を算定する関係では、労基法一二条の平均賃金について右とは別異に解釈すべきであると主張するもののごとくであるが、労災法による労災保険制度は、業務災害に関しては、以下に述べるとおり、旧労災法当時はもとより現在においてもなお労基法八章により個別使用者に課せられた災害補償責任を保険する趣旨のもので、右責任を代行する機能をもつものといわなければならず、したがつて業務災害による保険給付については、当該業務災害の発生した事業場の使用者の責任と結びついているのであり、この点において、解雇予告手当等平均賃金をその算定基準として用いている前記各場合が、各手当等の支給と支給事由の発生した事業場の使用者とを結びつけていることと何ら変わるところはなく、業務災害による保険給付についてのみ労基法一二条の平均賃金の意味を解雇予告手当等の場合とは別異に解釈すべき理由はいまだ存しないといわなければならない。

すなわち、労災法は、昭和二二年九月一日の施行以来数多くの改正を経て、適用範囲の拡大、年金制度の導入、費用の一部について国庫補助の導入、給付水準の引上げ、通勤災害への適用等を図つてきており、労災保険制度は、労基法による災害補償制度を種々の面で上回る制度へと発展してきていることが明らかであり、その意味では、「労災法ないし労災保険制度は労基法に基づく事業主の個人責任を保険するだけのものではない」という控訴人の指摘には首肯すべきものも含まれてはいる。しかしながら、そもそも労災保険制度は、労基法の災害補償制度に基づく業務災害に関する使用者の無過失責任を保険するために、右災害補償制度と同時に設けられたものであるところ、現行労災法においても、業務災害に関する六種類の保険給付のうち傷病補償年金以外の他の五種類の保険給付は労基法の定める災害補償に対応し、右五種類の業務災害に関する保険給付の支給事由、支給対象者等も労基法の災害補償の場合と同様とされていること(労災法一二条の八第一、二項。なお、旧労災法においては傷病補償年金は定められていなかつた。)、労災保険の機能として使用者の災害補償責任を免責させる効果があること(労基法八四条一項)、労災保険事業に要する費用の一部について国庫補助が行われているものの、弁論の全趣旨によれば、それが右費用全体に占める割合は極めて僅かで、昭和五〇年度から同五七年度においては〇・一五パーセントないし〇・二六パーセントにすぎないと認められること、したがつて、業務災害に関しては労災保険事業に要する費用はほとんどすべて事業主の負担する保険料によつて賄われることとされているところ、労災保険に係る部分の保険料率は災害率等を考慮して業種別に定められ、更に、負担の公平と事業主の災害防止努力とを期するため、一〇〇人以上の労働者を使用する事業等についてはいわゆる保険料率のメリツト制が適用され、過去三年間の当該事業の保険収支率に基づいて一定の範囲で保険料率を引き上げ、又は引き下げることとしていること(労働保険の保険料の徴収等に関する法律一二条)等の事情が存するのであつて、これらの点に鑑みると、前記のような改正による制度的発展を考慮しても、なお業務災害については労災保険制度と個別使用者の災害補償責任とは密接に結びついており、労災保険制度は個別使用者の災害補償責任を保険する趣旨のものであり、制度創設以来その本質に変わりはないといわなければならない。

(四)  また、控訴人は、二重雇用関係にある者の割増賃金については、労基法上、二つの事業場における労働時間を通算して考えるべきこととされているので、平均賃金についてもこれと同様に解すべきである旨主張するが、労働時間の通算、ひいては割増賃金について控訴人主張のように解されることになるのは、控訴人も挙げている労基法三八条一項が、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。」との明文をおいて、特に労働時間に関して労働者の保護の徹底を図つていることによるものというべきであるから、右の労働時間の通算の例をもつて、かかる規定の存しない平均賃金についても直ちに同様に解すべきであるとする理由とはなし難い。

(五)  更に、控訴人は、ILO第一二一号条約に依拠して、労基法一二条は、二重雇用関係にある者の平均賃金については、各使用者から支払われた賃金を合算した額を基礎として算定すべきことを定めたものと解釈されなければならない旨主張するが、この主張も採用できない。

すなわち、右条約一九条は、同条約上の業務災害に基づく定期金の算定につき、受給者の従前の賃金をその算定基礎の一つとしているが、右賃金の計算方法についてはこれを国内法の定めるところに委ねているのであり(右条約と国内法との関係については右条約に関して被控訴人が主張するとおりである。)、右条約自体は、業務災害給付を受けるべき労働者が二重雇用関係にあつた場合について、各使用者から支払われた賃金を合算したものを基礎として給付額を算定すべきことまで定めているわけではなく、そう解釈しなければならないとするものでもない。業務災害給付算定の基礎となる賃金をいかなる方法によつて算出するかは、専ら国内法の問題にとどまるのであつて、それについて右条約との適合性の有無が問題となる余地は存しないというべきである。したがつて、旧労災法一二条の二の給付基礎日額及び労基法一二条の平均賃金に関する規定は、もとより右条約に違反するものではないし、右平均賃金について前記説示のように解釈することが右条約に反することにもならない。

(六)  以上のとおりであつて、労災法上の休業補償給付及び障害補償給付の算定の基礎となる給付基礎日額(平均賃金)は、右各給付の支給事由の発生した事業場の使用者から被災労働者に支払われた賃金に基づいて算出されれば足りると解されるところ、前記争いのない事実によれば、控訴人の本件業務上負傷は凸版城北印刷株式会社において就労中に生じたもので、これにつき災害補償責任を負うべきは同社であり、近代製本株式会社はこれとは関係しないから、控訴人に対する休業補償給付及び障害補償給付は凸版城北印刷株式会社から支払われた賃金を基礎として平均賃金を算定し、これを給付基礎日額として支給すれば足りることになる。そして、前記争いのない事実及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人は既に右の見地に立つて右各給付につき控訴人に対する支給決定をしていることが認められるから、これと異なる見解のもとに右各給付には一部未払分があるとしてなした本件給付請求は理由がなく、これに対して不支給と決定した本件処分は適法といわなければならない。

2  次に、控訴人は、本件処分は「確定判決」(東京地方裁判所昭和五四年(行ウ)第二号同五六年七月七日判決の謂である。)の既判力に牴触すると主張するが、失当である。その理由は、右主張に対する原判決の理由説示(原判決六枚目裏六行目から一一行目まで)の記載と同じであるから、これを引用する。

3  よつて、控訴人の本件処分の取消請求は理由がない。

三  中間確認の訴えについて

1  控訴人の請求の趣旨及び理由によれば、本件中間確認の訴えは、被控訴人のこれに対する本案前の申立の理由と同一の理由で却下を免れないが、右訴えは、弁論の全趣旨に鑑みると、「控訴人は、昭和四八年一月八日凸版城北印刷株式会社において業務上負傷したことによる労働者災害補償保険法に基づく休業補償給付及び障害補償給付につき、凸版城北印刷株式会社及び近代製本株式会社が控訴人に支払つた賃金を基礎として算定された平均賃金を給付基礎日額とする受給権を有することを確認する。」旨の裁判を求めているものと解せられないではないのであつて、控訴人が右内容の受給権を取得し、現にこれを有するかどうかは、本件処分の違法性の存否の判断に対して先決関係にある法律関係ということができるところ、被控訴人が右受給権の存在を争つていることは明らかであるから、右訴えは不適法とはいえず、被控訴人の右主張は採用できない。

2  しかしながら、控訴人主張のように二重雇用関係にあつて複数の使用者から賃金を得ている場合であつても、旧労災法一二条の二の給付基礎日額は、業務災害に係る使用者から支払われた賃金のみを基礎とする平均賃金によつて算定されるべきで、その余の使用者から支払われた賃金をも合算して計算した平均賃金によつて算定されるものでないことは、本件処分の取消請求に対する判断で説示したとおりであるから、本件において控訴人が前記受給権を有することを肯認することはできず、控訴人の中間確認の訴えに係る請求は理由がないといわなければならない。

四  よつて、控訴人の本件処分の取消請求を棄却した原判決は相当であつて本件控訴は理由がなく、また、控訴人の本件中間確認の訴えに係る請求も理由がないから、いずれもこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 高野耕一 南新吾 根本眞)

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